シベリアパン
今ある本を読んでいる。
その中に、こんなくだりが目にはいった。
律子は、その真相を確かめたくてそこに向かった。
それは、子供の頃ならどこにもあった、そして今ではどこを探してもないようなパン屋だった。
そこに、ガラスケースに入った懐かしい顔を見つけた。
渦巻き形のチョコレートパン。グローブのようなジャムパン。ふたつ重ねの甘食。餡をはさんだ三角形のシベリア。大きなコッペパン。メロンパン。三色パン。。。
あんパン、ジャムパン、ドーナツ。。。
私などの年代では、上に書かれたパンたちは、脳裏に確かに刻まれているが、今の若者たちにはわからないのだろうな。
そんな中でも、菓子パンの「シベリア」を覚えていますか?
知ってますよね?
ヘェッ!ご存じない?
「カステラであんこ(餡)」を挟む三角形。
メロンパン、クリームパン、あんパンなどの横でシベリアを見ることもない。
「シベリア」を売っているパン屋さんは見かけなくなったし、スーパーにもなかなか置いていない。
教えましょう。
我が横浜、JR桜木町駅より徒歩3分のパン屋さんがあります。外観からして私が覚えのあるお店の外観、創業101年を誇る「コテイベーカリー」です。ここのは、まず挟まれる餡の厚みに驚かされます。
なぜ、シベリアと呼ばれるのでしょう。
①「シベリア」は、戦後で誰しもが甘いものを欲してた時代だったからこそ、求められる存在で、その頃の洋風への憧れの場所。
②シベリア地方には1年通して地中の温度が0度以下で常に凍結した土壌、いわゆる永久凍土と呼ばれる地帯が存在し、その土地の断面。
③カステラ生地をシベリアの大雪原と白樺に、羊羹をその雪原を走る鉄道に見立てたというシベリア鉄道説。シベリア鉄道
④当時は、「シベリア出兵」などもあり、身近に感じることができる名前として「シベリア」があったのかもしれません。
少し前ですがこのシベリアが、「風立ちぬ」で再び注目を集めることになりました。
。。。風立ちぬ、いざ生きめやも 。。。
愛の美しさがこれでもかと綴られ、物語を冒頭から耽美な空想に走らせます。
この時代ならではのロマンスを、生の重さを、文章の美しさで読ませてくれます。
物語が春-夏-秋-冬と季節を移ろいでゆくなか、節子の苦しい咳のこころの奥に見える、「いざ生きめやも」への答えが。。。
これを「真摯な愛」と呼ばずして、純粋を語ることなどできないのであろう。
ここで、ペンを置きたいと思います。
ところがであるが、「シベリアパン」は出て来ない。
「風立ちぬ」はジブリの飛行機野郎の話です。(当時、あまりの原作との違いに私は。。。。)
「風立ちぬ」
零戦設計士、堀越二郎という実在の人物が主人公の映画でした。この二郎が仕事帰りにいつも駄菓子とパンを売る商店で決まって買うのが、ほかでもないシベリア。
そうして、新聞紙で包んで持ち帰る。
私のガキの頃は、こんな時代でした。
戦後73年の今年ですが、そういや私は戦後
9年の生まれですから、時々道端に佇み、アコーディオンを弾いていた傷痍軍人を見ていた世代でした。
「シベリアパン」の文字を見て、「風立ちぬ」。。。
この一小節で、完全にやられます
。。。それらの夏の日々、一面に薄すすきの生い茂った草原の中で、お前が立ったまま熱心に絵を描いていると、私はいつもその傍らの一本の白樺の木蔭に身を横たえていたものだった
この、風景から私はいつも思いだすのです
「散歩、日傘をさす女」 クロード モネ
さて、私の読んでいた本は何だったのでしょうか?
「いざ生きめやも」
私たちも、忘れずに。。。。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Siberia.jpg
(シベリアパン)